感想文 『スリル・ミー』 1/5 16:00回

いつの話をしているんだという感じですが、せっかく書いたので公開します。

8割以上1月上旬に書いていたのですが、書き切る前に繁忙期に突入してしまい、2ヶ月経ってしまいました。遅筆とかいうレベルではない。

なんと公式HPがホリプロチケット内のみだったので、時間が経ちすぎて削除されてしまいました…

では、以下より感想文です。

 

 

前回公演で評判聞いてはいたのですが、観てはいなかったスリル・ミーを観に行きました。

キャストが成河さん(上手いと知っている)と福士誠治さん(上手いと知っている)だったので一歩踏み出せたところはあります。ミュージカルは嫌いではないのですが、あまり観ないので、キャストがよく分からなくて誰を見たらいいの?ってなっていたので。

 

成河さん:『私』

福士さん:『彼』

の二人劇。そこへ生ピアノ演奏が添ってくる。二人の関係性を描き出すストーリー。

事前情報をあまり入れないで行ったので(『私』と『彼』が同性愛関係なことは知っていましたが)、ラストで驚きました。でも納得もしました。

話を知っていても面白いと思います、その場合は見える景色が違っていそうです。

 

ある事件を通して描かれる、『私』と『彼』の関係。

一見、一方的に『彼』が『私』を支配しているように見えるが実は…というラストの場面が見せ場。

スリル・ミーを観るのが初めてで、他のキャストさんがどう演じておられるのか、演出がどこまで影響しているのか分からないのですが、役作りの自由度が高そうだなあと思いました。『私』と『彼』の関係性において破綻がなければ、役の性格が多少変わっても良いのではないか。

私が観劇しました成河さん・福士さんコンビだと身長差がかなりありましたが、体格差が殆ど無いコンビだったら、それだけでも印象が変わってきそうです。

 

ニーチェの超人思想がキーワードとして出てきますが、別にニーチェの超人思想がどんなものか分からなくても大丈夫でした。中二病的な「自分は凡百の人々とは違う、選ばれた人間だ」と思っている、という程度の認識で十分でした。哲学者に怒られそう。

実際にあった誘拐殺人事件を元に書かれた戯曲で、元となった事件を起こした2人も超人思想の持ち主で、若く、知力が高かったようです。その割にはお粗末な犯罪計画で、それがこの戯曲の鍵でもあります。 

なぜ『私』は犯罪が露呈してしまう危険があるようなことをしたのか。その真相を告白するとき、『私』が『彼』に執着しているのを利用して『彼』が『私』を支配しているかに見えた関係が逆転して、『私』が『彼』を手に入れる。その瞬間のやり取りを見せる舞台だと思いました。

 

それから、「スリル・ミー」という言葉。最初はスリルが欲しい、と言っているのが『彼』なので、『彼』の言葉かと思ってしまいますが、実は「スリル・ミー」と何度も歌っているのは『私』だし、『彼』も『私』対して何度も「それが欲しいんだろう?」と言っています。「それ」=彼の愛かと思ったけれど、そのセリフが出てくる前のやり取りからすると「スリル」の方がしっくりくるように思います。

ダブルミーニングか、ミスリードではないのかな、と。

もう一回観ていろいろ確かめたい!

 

 

 

では、以下キャストさんの感想を。

 

成河さん

上手かったですね!流石です。現在(53歳)と犯行時(19歳)が何度も入れ替わるのですが、姿勢・口調・声色できっちり演じ分けていました。

成河さんの『私』は頭はいいけれど、おどおどしていて、友達いなくて、スクールカースト最下層っぽい。『彼』への執着がとにかく強くて、『彼』に自分を見てもらうためなら何でもするという徹底ぶり。

 

私は愛情ではなく執着心を強く感じました。『彼』を手に入れるためにわざとバレるようにしたのだ、と告白するところ、狂気を孕んだ表情がとても良かったです。

前方下手端だったので、その時の表情が良く見えて、あんまり素晴らしくて見入ってしまいました。代わりにその場面の福士さんの表情が一切見えないのですけども。前方上手端からもう一度見たいです、その時『彼』がどんな表情をしていたのか、とても気になります。

 

この場面、『私』が『彼』にこの告白をしたのは、現実にあったことなのだろうか?と考えてしまいました。19歳のときの話は、全て53歳の『私』の回想なので、もしかしたら、あの時『彼』が怯え、怖がり、焦り、無理矢理強がっている姿をただ見ていただけかもしれない。事実とは違うことを『私』は事実にしてしまえる。唯一その時共にあった『彼』はもういないのだから。

こう考えてしまったのは、告げない方が恐ろしいなと思ってしまったからです。何も告げずに、『彼』と過ごす一生を手入れる方が怖いし、成河さんが演じる『私』はそういう執念を持っていそうだと感じました。

炎のようにいつか燃え尽きる熱さではなく、水のように相手の全てを浸食していくような、気付くとひやりと冷たく感じる執念です。

 

 

福士誠治さん

すごく格好良かったです。身長あって肩幅あって脚長いのでスーツが素晴らしく似合っていました。もちろん演技も素晴らしかったです。

福士さんの『彼』はSo Cooooool!なカリスマ。

スクールカースト最上位で自分以外は下等民って思っていそう。チャラさが全くなかったので、取り巻きとはつるんでるというよりは勝手に群がってくるイメージ。

 

『私』も勝手に群がってくるうちの1人なのだけれど、他とは違って頭がいいし自分の命令をよく聞くので使い勝手がよくて傍に置いている感じがしました。情は一切なかったな。もしかしたら、『私』の告白を聞いて「やられた」と思ってから、『私』に対して何かしらの感情は沸いたかもしれない。でも劇中の殆どの時間、『彼』にとって『私』は使える駒でしかなかったように思います。

 

『私』に対して上位であるように見せながら実は関係をコントロールされている受動的な役なので、演じるのがなかなか難しいのではないかな?と思いました。

 

 

『私』と『彼』の関係は常にどちらが上位か争っているような、どちらが相手を「手に入れる」のか、支配することができるのか闘っているような、そんな関係に思いました。

きっと他のキャストさんによっては、歪んだ愛情で繋がっているような関係になったり、求める愛情の種類が違ってすれ違っていたりするんでしょう。

他のキャストさんでも観たくなるし、同じキャストさんでも座席位置によって見えてくるものが違うのではないかなと思いました。ハマる人がいるの、とてもよく分かります。次回また公演があったら、今度は組違いで何度か観たいなと思いました。