感想文 舞台『No.9ー不滅の旋律ー』 11/11、11/17夜、11/24夜、12/1夜
本日(記事UP)は12/3ですが、このブログなんと11/19から書き始めてるんですよ…我ながら遅筆すぎです。
横浜公演も行くけど、そんなに変わらないだろうと思うのでUPします。
再演なので、ストーリーバレとか何も気にしていません。初見がまだの方は気を付けてください。
ベートーヴェンの20代終わり~晩年までを、ストーリーテラーとなるマリアを中心とした周囲の人々との交流と、芸術家としての葛藤を描く作品。
って書くとなんかとても硬いあらすじですが、話に入りやすいし分かりやすいです。脚本と演出が良いのだと思います。
生ピアノ演奏もあり、ふんだんにベートーヴェンの楽曲が使われています。私は音楽の教養が浅いのでよく分かっていない部分も多そうですが、クラシック好きだったらもっと楽しめそうです。
2台のピアノがあるのもあって、舞台が小上がりのような造りになっています。(ピアノが両脇にあって、そこから一段上がる形、舞台正面にも奥にも段がある)
座席の前方3列潰しているのもあって、かなり奥行きがあるように思いました。
最奥にプロジェクターがあり、背景が映されたり、演出効果としての映像が映ったりしていました。
演奏用ではなく、舞台装置としてのピアノもあり、それが複数台あることで場面に実感が出ていると思います。
ピアノ工房にピアノが一台では、説得力が出ないですよね。ベートーヴェン家にも複数台のピアノ。ベートーヴェン家には他にソファと書き物をする机・椅子があるのですが、それが1幕と2幕で反転していました。
衣装がとにかく素敵です。女性のドレスの形も複数通りあり、恐らく年代での流行りの型の変化と人物の年齢を表しています。
1幕のマリアの衣装が特に好きです。小顔ですらっと細い剛力さんにとてもよく似合ってる。
男性の衣装もフォルムが美しくて、コートの形もいろいろだったので、きっと流行りや階級なども参考にしつつ、それぞれに似合う衣装を仕立てて頂いたんだと思います。
当時の衣装についてはもう少し詳しく勉強したいです。
鬘はアデランス提供だそうで。流石の自然な仕上がり。特に2幕のルートヴィヒの鬘はすごい。ベートヴェンの肖像画にそっくりになってる。左側の髪が少し貌にかかっている、アレです。
しかも衣装が、あの肖像画のガウンで出てきた日には…!べ、ベートーヴェン…!!!!ってなります。
では、以下各キャストの感想を。
この演目はとにかく主演に拠るところが大きいなと思いました、主役が果す役割が大きいというか…重圧すごそう。
役の感情の起伏がとても激しいし、精神的に追い詰められる場面も多いので疲れるだろうなあと思います。もちろん出ずっぱりなので体力的にも大変だろうと思います。
でも長年第一線で活躍してきた方なので、自己管理きちんとして途中で息切れしたり潰れたりすることはないだろうという信頼感があります。
ルートヴィヒが一番可哀想だなと思うところは、みんなが離れていくことではなくて(もちろんそれも淋しいけれど)(兄弟や恋人や、周囲の人々が離れていくのは、自分もちょっとは悪いところがあると自覚していそうなのでまだ救いがある)、自分がカールに対して、かつて父親がしたのと同じように振舞っている自覚がないところです。暴力とは実際に殴るだけではないのだ…
虐待の連鎖ですね。もう2幕冒頭でカール出てきた時点でこれは…という予感がする。しかも本人はカールを育てる=自分を育て直している(カールの為ではなく自己救済である)という自覚がない。既に青年となっているカールがいつまでも子供に見えているところからもそれは伺えると思います。カール可哀想。そして自覚のないルートヴィヒはとても哀れ。なので自覚した途端に自己崩壊寸前になってしまうわけですが。
マリア・シュテイン(剛力彩芽さん)
びっくりするほど顔が小さい、首が長い、とにかく細い。可愛くて見栄えがして存在感がある。
腰から広がるドレスがとてもお似合いです。好きなのは1幕でエプロンしてるとき。本当に可愛くて…ロングヘアーもお似合いです。美人は何しても似合うな!
初日、ゲネ映像より良いなと思って、その後もどんどん良くなっていくので、若いし舞台2回目だし、伸びしろ大きいんだろうなと思います。きっともっと良くなると思う。
声と滑舌が良いです。
2幕で歳取れたらもっと良かったけど、若いし無理して年取った演技して違和感出るよりはそのままでいいかな、と思います。
マリアは芯が強くて自立した女性でした。ナネッテと姉妹なのはとても説得力があります。
愛されるより愛したい人。幸せになりにくいよそれは…
ストーリーテラーであり、観客の代弁者となる役だと思います。だからマリアは徹頭徹尾ルートヴィヒの味方でなくてはならない。結構大変。
一番大事な場面で作品の肝といえる重要なセリフが回ってくるのだけど、そこはあとひと皮剥けそうなので横浜公演期待してます。
「わたしたちもまた、鍵であり、弦であり、管なの」(戯曲本買ってないので間違っていたらごめんなさい)っていうところです。
って書いていたら12/2、セリフちょっと変わってた「弦であり、管であり、鍵盤なの」
確かに鍵(ケン)と弦(ゲン)を並べちゃうと音が似ているから「ん?」ってなるし鍵って何?ってなりがちだから、こっちの方が分かりやすくていいと思います。
ヨハン・ネポムク・メルツェル(片桐仁さん)
片桐さんは観るの2回目かな?前回観たときはちょっと作品が合わなくてその舞台を脳内から消去したので気持ち的には初めて(笑)
今回はコミックリリーフでもあるけど、そういう役を振られるのが多いのでしょうか?前観たときはドシリアスだったような気がするけど、脳内消去したので記憶が定かでない…
いつも思うけれど、シリアスな物語の中でコメディパートを担うのはセンスと技量が要る。元々お笑いの人だから出来て当たり前なのかも知れないけど、それを常に要求されるのも大変そうだなと思いました。コメディパートだとルートヴィヒとド突き合ってるところが一番好き。
メルツェルさんは発明家で実業家。調子イイ人。わりとやり手。そして出落ちの人。あの髪形を出落ちと言わずして何というのか(笑)
発明品に脈略がなくて、色んなことに手を出してるあたり、平賀源内ぽいなと思いました。
実業家(商売してお金を稼ぐ)が本業で、発明は趣味なのではないかな。もしくは発明に限らず、発送が豊かで思いついたら何でも試してみたくなるのかも。うーん、でもあの現実的なところ、やはり実業家が本業かな。本人は発明家って言っているけれども。
ヴィクトルの借金を預かってくる場面が好きです。お金儲け好きだし調子イイけど、それだけの人ではないなとはっきり示してくる場面で、メルツェルさん面目躍如。
うわ上手い!!!と思いました。声もセリフ回しも表情もいいです。す、すき…!
上手すぎてなにも付け加えることはないです。本当に上手いと思う。
ナネッテさん職人気質でプライド高い。ルートヴィヒに迫られたときのあの反応からして、女性であるというだけでかなり馬鹿にされた経験があるんでしょうね…
でもこの場面、「友達だから2人で旅行に行って、めっちゃ盛り上がったから夜に彼の部屋で喋ってたら何を勘違いしたのか迫られた」ですよね?微妙だなーと思うの、私だけ?
アンドレアスが「ナネッテはピアノしか愛せない」的なことを言いますが、ちゃんと夫も妹も愛しているのが伝わってきます。ただピアノへの愛の方が深いだけ。あと全体的に少し言葉が足りない人だと思います。
「だいじょうぶっ!」の言い方がとても好きです。ナネッテがどういう人かあれだけで分かる。
12/2観劇時に随分セリフ巻いてきていて、あっこの人コントローラーなんだ、納得だわ、と思いました。そこそこの量のセリフがある役でないと調整役は難しい。見たところこの舞台では村川さんと羽場さんかな…?
ニコラウス………は別記事にします。(まだ1行も書いてません)
↓12/10書きました!
https://oshigotoid.hatenadiary.jp/entry/2018/12/10/225146
パンフで「アンドレアスはオアシスのような存在」と御本人が仰っておられますが、本当にアンドレアスはオアシスです。すごくほっとする。
発声がよくて、声のトーンは高めで癖があると思うのですが、とても柔らかく耳に届く。
パンフレットを読んで、ちゃんとネームバリューがあって演技もできる人でも引退考えたりするという事実に衝撃を受けました。岡田さんのアンドレアス好きなので、続けてくださって良かった。
「ピアノを愛する彼女を愛せるか」素敵なセリフです。アンドレアスはマリアにとって父親代わりだから、助言を素直に聞きます。
マリアがベートーヴェンを愛するようにアンドレアスはナネッテを愛していると思う。でもナネッテはすごい才能はあるけれどベートーヴェンと違ってまともに社会生活を送れる人なので、多少の波風はありつつ幸せに暮らしていけるのでした。芸術家と職人の違いなのかな?でも芸術家が全員性格破綻してるわけでは無いですよね…
というか、アンドレアスとナネッテの組合せは静と動だけど、マリアとベートーヴェンは動と動だから、穏やかな暮らしとか無理なんじゃないかと思いました。
フリッツ・ザイデル(深水元基さん)
背が高くて顔が小さくて脚が長い。2幕の足元まであるロングコート姿がとても格好いいです。モデルのお仕事もしていらっしゃるのですよね。納得のスタイル。
フリッツさん、私の中ではよく分からない人です。
変貌の理由もちゃんと語られているのに、何故か腑に落ちなくて困ってます。たぶんベートーヴェンの音楽の力を見せつけられたから、という理由だけであそこまで変わってしまうことに納得が行かない上に、それ以外の理由が全く見えないからだと思います。時代に流されるにしても、1幕のフリッツを鑑みるともっと弛い方向に流されそうなのに。
1幕のフリッツさんが好きだから、というのもあるかもしれません。しょうもなかったけど、憎めない人だったのに…
カスパール・アント・カール・ベートーヴェン(橋本淳さん)
立ち姿がとにかく綺麗。スタイルが良いのも勿論あるんだけど、客席に近い方の脚の爪先が常に客席に向いてるんですよ。あれで綺麗に見えている気がする。そして脚が長い…!
もちろん演技も良いです、何でもそつなく熟せる人なんですね。
過去3回も拡樹さんと共演されてるの全く認識していませんでした。ROMEOも白虎隊も恋パンもDVDを5年以上前に1回しか見ていないもので…作品の内容すら覚えてないので…申し訳ない…
ルートヴィヒを兄としても音楽家としても敬愛しているけれど、距離が近すぎてダメなところ見えすぎて辛くなってる。偏屈だしプライド高いし、やたら細かいくせに妙に騙されやすいし。僕らのことを考えてくれてるのは分かるけど、束縛キツイし。はーしんど…っていうカスパールさん。(もっと上品です)
東京公演中盤からニコラウスとセリフ無いところでわちゃわちゃしだして、仲良し兄弟ですっごいかわいい。あれがあることで2幕でニコラウスがヨハンナの味方するのに説得力が増すように思います。
ヨハンナ(広澤草さん)
カスパールの妻、カールの母。ルートヴィヒにはベートーヴェン家の嫁に相応しくないと毛嫌いされてる。でもルートヴィヒが満足する嫁って実際にいるのかな?あの束縛ぶりでは、どんな女性でも文句つけそう。
カールの親権をルートヴィヒに奪われてしまうの本当に可哀想。ベートーヴェンの方がお金持ってるだろうし、知識階級の知り合いも多いだろうけど(だからこそカスパールはルートヴィヒに後見を頼んだのだし)、そういう問題じゃない。人はパンのみにて生きるに非ず。
金子みすゞを思い出してしまいました。自分に瑕疵がなくても相手の家が強いと親権奪われてしまうんだよね…
多分、1幕でコーヒー豆61粒使ってクビになるメイドも広澤さんだと思うのですが…声変えてましたね。
メイドさんも好きです。タダ働きとか、可哀想すぎって思いました。
カール・ヴァン・ベートーヴェン(小川ゲンさん)
初見時、本役での出番があまりにも少なかったので驚愕しました。そして次から本役でないところに出てくる小川さんを探すようになってしまった…(笑)
カフェの給仕さんと、フランス兵と、民衆(通行人とかベートーヴェンに群がる人)は3ヵ所くらい?で発見しました。
セリフがあるアンサンブル的な役は殆ど小川さんと野坂さんで担っていらっしゃるのですね。
カールは、正直子役さんの方が出ている時間が長いように思えるほど少ししか出てこないので…
「自分を取り戻すためには死ぬしかない」とまで追い詰められた青年を、あの短時間で表現するのは大変そう。しかもすぐ赦しの場面になってしまうし。死ぬほどイヤだったのに、それでいいのか?って観客に思わせないようにしなければならないので、出番短いけど濃度は濃いなと思います。
少年カール/少年ルートヴィヒ(山崎雄大さん)
やたら殴られて倒れこむモーションが多くて大変そう。
本当に少年の時と、成長しているんだけれどルートヴィヒには少年に見えている時との差がきちんと出ていて良かったです。
少年カールとルートヴィヒが同じ容姿をしていることは、ルートヴィヒがカール=自分と見ている傍証ではないかなと思います。カール=自分だからカールに音楽的才能が絶対にあると信じているし、自分なのに言う事聞かないから余計イライラするんでしょうし、成長して自分と別個の自我が成立していることも認められないんだろうと思いました。
兵士他(野坂弘さん)
お顔が特徴的なのですぐ見分けついちゃう。フランス兵とパン屋と郵便屋と民衆とカールを逮捕にきたフリッツの部下。もっとあったらごめんなさい。
お着換え何回ですか?舞台裏が忙しそう。
すみません、正直に言いますとあんまり見てません。でも役割的には目立ったらダメだと思うので…上手いってことだと思います。
ヨゼフィーネ・フォン・ブルンスヴィク(奥貫薫さん)
貴族階級の女性らしい品のある美しさ。ドレスも市民階級と違って豪奢で見てるだけでも楽しいです。
ちょっとセリフ回しが古風な感じがするのですが、そこが階級差を表すのに一役かっていると思います。この舞台では、貴族は旧体制の象徴とも言えるので。
演じ方によってはただ嫌な女になってしまうと思いますが、そこに大きく時代が変化する時を生きた女性としての葛藤や生き様が見えるのがすごく良いと感じました。
マリアがヨゼフィーネにルートヴィヒから預かった金を渡す場面で、ルートヴィヒに会いたかったんだな、と分かったし、結婚することはなかったけれどルートヴィヒを愛していて、ある面ではマリアよりも理解してる。
だからベートーヴェンを選ばなかったのは実はかなりの葛藤の末だったのでは、と思いました。でも選択を絶対に後悔しないという強い決意も感じました。この作品に出てくる女性は皆気高いな。
ヨハン・ヴァン・ベートーヴェン/ステファン・ラヴィック(羽場裕一さん)
舞台を観るようになって10年も経ってないし、見ている舞台の8割は推しの出演作かその周辺なので、今回観劇するまで元々は舞台俳優である羽場さんのイメージは2時間サスペンスによくいる人でした。なんてこった。
当たり前ですけど、すごく上手い。思ってたよりナチュラル系の演技でした。でも求められたら外連味たっぷりのも出来るんだろうな。そっちも見てみたいです。
2役で、舞台上でラヴィック医師→父親(幻影)に変貌するところが一番の見どころだと思います。顔つきも纏う空気も変わるので。声のトーンは少し下がるけどあまり変わっていない気がします、喋り方が変わる。
所属事務所のプロフ写真がとても格好良かったです。生で拝見しても勿論かっこいい。そして身長そんなに高くないのに大きく見える不思議…
初日75、17日24日80、1日120みたいなテンションだったように思いますが、1日は座席が前の方だったからかも(他の回は大体同じような列でした)
でも遊びの部分は絶対に増えてました。座組が熟れてきたのかな。コメディパートの人なので遊び入れやすいとは思います。メルツェルばっかりだと単調になってしまうから、ヴィクトルのコメディパート必要です。
顔が良いのにコメディパートできるとか無敵だと思います。
ヴィクトルは詐欺師と言われてますけど、夢追い人ですよね。こういう人いっぱいいますよ、お金借りる時も嘘言ってる訳でも巻き上げようとしている訳でもないんです。儲かったらちゃんと返すつもりでいる。ただ儲かることがないだけで。
詐欺は最初から騙すつもりでやることですから。ヴィクトルは詐欺師じゃないです。
現実的なラインより随分甘い予想を立てるあたり、顔は広いけど仕事ができない営業みたいです。仕事の出来じゃなくて、付き合いで「でもアイツいい奴だからさ」って仕事貰うタイプ。
2幕でフリッツに殴る蹴るされる。最年少と最年長が身体を張る舞台なんですね。
感想を書いていて思ったのですが、ベートーヴェンは愛が増えることが分からなかったのかな、と思いました。
ひとりの人間が持っている愛情は定量で、周囲の人間が他へ興味を移す=自分への愛情が薄れたと思ってしまうのかも。愛情がゼロサムだと思っているなら家族に対する束縛も、愛した人には尽くしてしまうのもまあ分かるかも。
本当はプラスサムだと気付けたのが最後のシーンってことだと思います。
役名フルで書いたら皆長い長い。全員ヨハンナ並みの短さにして欲しい、せめてフリッツ・ザイデル程度でお願いしたい。